南阿佐ケ谷の家


○緩やかな距離感を生む3つの「にわ」
南阿佐ヶ谷の住宅地に建つ80㎡ほどの小さな住宅である。
低層住宅の中に所々3階建やちょっとした樹木などがあり、緩やかなスケールを感じることができる周辺環境のリズムをそのまま小さな建築に反映したいと感じていた。
今回の建築は最低敷地面積70㎡という土地の細分化を防ぐ為に都市計画によって定められた地域の第二世代に当たる。今後も周囲ではゆっくりと新陳代謝が行われていくであろうこの敷地に、定められた建蔽率により建物面積と同じだけ発生する外部空間を、地域や周囲と緩やかにつながる場所にするよう考えた。
道路側、南側のお隣さん、そして西側のお隣さんの3カ所に対して外部空間を設け、それぞれを「にわ」と名付けている。どの部分も小さく庭というよりも隙間の空間ではあるが、地域と緩やかにつながりを持てる「庭先コミュニティー」が発生する場所である。お隣とベランダ越しに話をし、お隣の車庫を超えて向こう街区の人とも話ができる、そして近所の知人がちょっと立ち寄った時に世間話をするという様な関わり合いのことである。こういった外部空間はコミュニケーションが円滑にいくだけでなく、適度な距離感を生み出すことで周囲の小さな家同士とも良好な関係を続けていける様になるのである。
 
○ひろがる空間、ひろがる使い方
建蔽率50%容積率100%の狭い敷地を充分に活かすために、水平方向と垂直方向の両方での奥行きを感じる方法を考えた。そもそも3つの厳しい形態制限による高さ方向の制限があるため、部屋単位のボリュームごとに高さを設定することで、それらの影響を感じさせないものとした。その結果、3つのボリュームがそれぞれの高さと大きさを持った上で不定形状ボリュームの「うちにわ」と「真ん中の部屋」につながっているため、水平方向ではその部屋の先に異なる部屋が見え隠れし奥行きと広がりが発生する。
 
吹き抜けなどが無くとも、身体的には水平・垂直方向ともに広がりを感じることができるスケール感を重要視している。またそれぞれの部屋は、設備機能は固定化しているが、例えばソファーを置いてリビングに、椅子と簡単なテーブルでダイニング代わりに、楽器を弾けば音楽室に、本を読めば書斎にという様に柔軟で曖昧なものとしている。部屋ごとで高さや大きさ、方角や光の具合が異なっており、1日の中でも使い手の気分とその時間に合あわせた小さな部屋を贅沢な大きい使い方ができるような想定をしている。
 
○変化しながら存在しつづける家
外壁をくるんでいるのは、フェンスやガードレール、電気盤などのインフラ関連で良く使われている亜鉛鍍金鋼板という耐久性はるが、目立たない普遍的な素材である。長い年月で初期に周囲を映し込んでいた光沢は徐々に消え、実際に亜鉛が溶け出していき徐々に風化していくという特色を持っている。建築当初は空や緑などの風景を映し込み少し異質な銀色の表情をしていたものが、時間が経つにつれて鈍いグレーになり周囲に馴染んでいくという変化がある素材である。周囲との関係性を考えた時に、一時的でも永遠でもないが時間的連続性のある素材で外壁をくるむことで、更新し続ける住宅地というある種の地域性に呼応しているのではないかと考えている。大きい空間を感じられる家でかつ周囲との関係は「小さな家」であり続けてる。
 
共同設計:出口亮
所在地:東京都杉並区
用途:個人住宅
構造:木造
規模:地上2階建
建築:41.22㎡
床面積:81.10㎡
竣工:2014.12
写真:鳥村鋼一
 
location:Tokyo,Japan
use:House
structure:Wood
building area:41.22㎡
floor area:81.10㎡
photo:Koichi Torimura