香雅堂


麻布十番の「お香」の専門店である香雅堂を改修するという計画である。
築40年のRC造5階建ての1階と2階を現在の店舗運営に適合させるためにほんの一部分を改修した。
1階は店舗として、2階は香道や茶道の教室としてそれぞれ利用しており、長い間に何度か行われてきた改修とその時々の目的を的確に掘り起こし、現況に合わせて整理することが主な役割であった。
 
1階店舗内では、事務作業や梱包作業を行うスペース、対面販売を行うスペース、お客が自由に品物を見て回れるスペースという単純な分割を行った。その分割を行う垂直面に関しては、光の透過に合わせて鉄、和紙、ガラス、そして既存の簾を使い分けた。その一方で新たに出現させた水平面は栗の木、三和土という柔らかさと質感を重視したものとしている。
お香屋は扱っている品目が多い上にそれぞれの金額も桁違いに差があり、物によっては店頭に並ばず要望があった際にのみ出すものもある。そのため既存の什器や床の間はそのまま利用しながらも、床、壁、天井の仕上げを変えることでメリハリを付け使い勝手上も見た目の上でも商品の混乱が起こらないように配慮をしている。
その一方で対面販売を行うスペースは、客が香木の説明を受けながら選ぶ、また聞香をおこなう(香りを感じること)など、香木を扱う店に最も核になる空間であることから、緊張感ともゆとりを合わせ持ったスペースを設けたいと考えた。2枚の和紙を重ねてガラスに貼ることでパーティションとし、奥にある事務スペースの作業用照明やわずかに感じられる外部開口部の光がこの和紙を通して伝わってくる。過度に演出した光でなく移りゆく日々の光をこの対面スペースに引き込むことで、日本らしいぼんやりとした空間を体験できる。
間口が狭く奥に広い長屋の様な平面では、自然光を充分に取り入れることはできないが、緩やかな場の区切り方を設定することで、結果として自然光と人工光とが合わさり自然な空間としての奥行きが発生したのではと考えている。
 
2階は元々あった和室を魅力的に感じるようにすることを主体として考えた。
和室に続く間を和室とは異なり数寄屋の要素を入れ込まず、基本的には1階と同じく、垂直面では和紙を、水平面は栗の木での構成をベースとしている。
 
全体を構成する要素も素材も未だに賑やかさが感じられる一方で、そのスペースごとに大枠としての構成をつくったことで、小さな商品まで包含できる空間になったのではないかと考えている。
改修というよりも、これまでの40年とこれからの40年をつなげるための整理であったと言える。
 
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所在地:東京都港区
用途:店舗
構造:RC造
規模:地上5階建1階
建築:61.11㎡
床面積:268.55㎡(改修部約55㎡)
竣工:2014.8(2階)2016.7(1階)
写真:藤井浩司/ナカサアンドパートナーズ
 
location:Tokyo,Japan
use:SHOP
structure:RC
building area:61.11㎡
floor area:268.55㎡(design area about55㎡)
photo:Koji Fujii/Nacasa & Partners